東アジアコミュニティの構築へ向けて
奥谷 聡子
慶應義塾大学 法学部 政治学科 4年
私が今回当国際会議に参加し、一つ意外な驚きがあった。それは、アジアが統合されているとする見解が私の想像以上に多かったことだ。欧州としばし比較されるアジアには、政治経済体制が異なる国も多く、戦後処理を巡る歴史問題や領土紛争が根深く残っている。
統合への道筋が険しく感じられる一方で、スリン氏やインドラワティ氏をはじめとする各国のリーダーからはアジアの経済連携に意欲的な姿勢が示され、日本にその牽引役を期待する声が多かった。経済連携の発展のためには内需を生かした“成長促進”と“財政健全化”が鍵であることが今会議の重要なメッセージだったのではないだろうか。
リーマンショックをはじめとする世界金融危機や近年の欧州債務危機は、先進国率いる戦後の世界経済システムの見直しを余儀なくさせた。経済的相互依存関係の深化した今日、海の向こう側とはいえ、アジアもその例外ではない。経済連携の強化により、アジア域内の内需拡大に繋がる一方で、国内財政政策の選択の幅を狭め、一国の財政危機が周辺国に飛び火するリスクもある。したがって成長か財政緊縮の二者択一ではなく、両者を並行させ、グローバルガバナンスを強化することが経済連携の前提にある。そのためには、国家間の政策調整は不可欠であり、各国政策決定者は政治的問題にとどまらず、サミットや会談を経済政策討論のために有効活用していくべきである。
では、日本はアジアの経済連携にいかに貢献できるのだろうか。近年、日本では国内政治の混迷や中国の台頭によるアジアにおけるプレゼンス低下が叫ばれるが、新興国を新たな市場としての見方をより広めるべきではないだろうか。新興国の多くは若者の失業率や格差が大きく、労働集約型構造から抜け出せずにいる。格差是正のためにはインフラ整備や社会保障制度などのセーフティーネットを設けることや教育や研究開発に投資することで新興国の均衡的成長を促すことが可能である。こうした対外不均衡を排除することが、アジアの内需を増やし、結果的に日本の経済繁栄に直結するのである。日本はグリーンエネルギーなど技術の優位性を活かした持続的経済発展やリスクマネジメントの仕組みづくり、ODAを活かした地域間の格差是正に貢献できるのではないだろうか。日本の国内財政状況に対する厳しい意見も飛び交う一方で、日本の国際貢献に高い評価も示された。かつては世界銀行の経済援助受給国だった日本は今日、逆に低所得国を援助し、世界銀行で2位の貢献国に成長した。その他ミレニアム開発目標や気候変動問題などグローバルな問題に対するコミットメントがアジア諸国の見本にもなり、今後も大きな期待が寄せられていると感じた。
他方で、日本の自信喪失に対する懸念や、地域の問題へのより積極的な関与やリーダーシップを求める意見もあった。60年代に提唱された「福田ドクトリン」はアジア諸国との真摯な友好関係を目指した日本の外交指針であり、日本と東南アジア諸国の関係構築だけでなくASEANの域内協力の基盤にもなった。昨年の東日本大震災から日本が早く回復し、再び東アジア全体に積極的に関与することに期待が示された。
最後に、アジアの未来構築に必要な材料は“共通のビジョン”なのではないだろうか。パキスタンのカル外相はインドと国交正常化を実現させることは世界中からの投資を促進し、無限大の可能性やチャンスを切り開くことになると講演中に述べていた。政府間の政治的問題は解決困難ではあるが、相互に発展のビジョンを共有することができれば、そこから少しずつ歩み寄ることができるのではないだろうか。それこそ、東アジア共同体が固有名詞にならなくても、一つのコミュニティになることへの第一歩であると考える。